【NDR Medical Technology Japan/田口】世界一の医療を守れ。タイムリミットは近い。
企業インタビュー
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2022-03-14
【NDR Medical Technology Japan/田口】世界一の医療を守れ。タイムリミットは近い。

日本の医療は世界一と言われる理由の一つに国民皆保険制度がある。誰もが日本のどこにいても治療を受けられる基盤そのものだ。だが、それを支える医師の不足により、根底が揺らごうとしている。医師として16年目を迎えた田口 和己氏は名古屋市立大学の泌尿器科専門医として勤務する傍ら、NDR Medical Technologyへの参画を決めた。NDRは、熟練の医師と同等水準の手術、検査を可能にするテクノロジーを持つシンガポール発の医療機器スタートアップだ。「医師としての仕事を超えた社会貢献がしたい」と語り2022年2月にNDR Medical Technology Japan株式会社を設立した田口氏に、同社を通じて実現したい医療の未来についてインタビューを行った。


田口 和己(タグチ カズミ)さん(名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野 講師)

名古屋市立大学卒業後、愛知厚生連海南病院での初期臨床研修を経て、名古屋市立大学泌尿器科に入局。2014年に医学博士取得。2016〜2017年までカリフォルニア大学サンフランシスコ校に留学。尿路結石の研究・手術を専門とし、2017年よりシンガポールの医療機器ベンチャ−であるNDR Medical Technologyと国際共同研究を開始、臨床試験を遂行中。2022年2月にNDR Medical Technology Japan株式会社を設立。


世の中を知り、世の中を変える。いまも変わることがない、医師を目指した原点。

ーーご経歴について教えてください。

大学卒業後、医師としての初期研修を経て母校でもある名古屋市立大学の泌尿器科に入局しました。専門研修で医学博士も取得しています。尿路結石を専門として病態解明に関する基礎研究を行う傍ら、手術も行っています。約1年間カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)に留学する機会を得て、手術に関するデータ収集や医療機器の解析に関わる研究に従事しておりました。具体的には使い捨ての内視鏡に関する調査、研究で「使い捨て」というと馴染みがないかもしれませんが、医療現場では安全性、コスト両面から注目されているものです。通常内視鏡というのは使った後に毎回減菌し故障のチェックを行って再活用するのですが、耐性菌と呼ばれる強いばい菌が残ってしまうことがあり、感染による訴訟なども起きています。減菌やメンテナンス修理費用や関連する人件費、物品のコストを試算し、使い捨て内視鏡とのコスト比較や性能比較に関する研究を行っていました。


ーーNDRにはどのようにつながっていくのでしょうか。

留学の経験から語学も習得できたこともあり、帰国後は国際的な会合にも参加する機会に恵まれました。アジア泌尿器科学会というアジア圏の泌尿器科医師が集まる学会で、NDR Medical Technologyの当時のアドバイザーを務めていた先生と知り合い、「こんな技術を持つ製品を開発しているのですが、評価してくれませんか」と依頼を受け、NDR社と名古屋市立大学の泌尿器科で共同研究を始めた、というのがきっかけです。手術など外科医の側面を持ちながら医療機器の研究に携わり、NDR日本法人の設立準備(インタビューは2021年12月時点)を行っているというのが私の現在の立ち位置となります。

参考:NDR Medical Technology コーポレートサイト

https://ndrmedical.com/jp_index.php


ーー医師を志したのはどのような経緯からなのでしょうか

中学生や高校生のときですが「世の中を知りたい」「世の中を変えたい」という想いから医学部という選択肢をイメージしました。あまり公にしていないのですが、医学部に行くか出家をするかで悩んでいたのです。世の中の理を知りたいという想いと、医師として生命の真理を突き詰めたいという想いがあり後者を選んでいます。最終的には人種や国籍、性別などが関係のない仕事をしたいと考え、どこでも活躍できる、どこの困っている人も助けられる、色々な人たちの役に立てるということもあり、一番腹落ちしたのが医者という職業でした。泌尿器科と専門としたのは、内科と外科のちょうど中間のようなところで、1日中手術をする日もあれば、外来で患者さんの診察をしている日もあるという色々なことを知り、経験できるのが面白そうだと感じたからです。

医師不足の解決と、医師ならではの価値創出に貢献する。NDRのテクノロジーが示す可能性。



ーーNDRとの出会いから今に至るまでの流れをもう少し教えていただけますか。

共同研究を開始し、まずは実際の患者さんに対する臨床試験を行いました。良い結果が出て医療現場での課題を解決できる、医師としても使いやすいものであるということも見えてくる。私たちは医師として研究を行う以上は、それを発信していくことが求められます。学会発表や論文発表を重ねていくことで国内で徐々に注目が集まっているというのが日本の状況です。NDRの動きとしては、シンガポール発のスタートアップとして日本を含めたアジアへの展開に加えて、ヨーロッパやアメリカでの販路拡大を見据えています。日本での実証実験の結果も示し、ヨーロッパでは医療機器の承認が下りています。アジアでは中国が先行していますが、日本のマーケット拡大を目指して日本法人の設立を急いでいるという段階です。投資元であるリアルテックホールディングスさんのアドバイスもあり、日本法人を設立するのであれば既に医師として製品の魅力を発信している田口を代表に据えるのがいいのではないかというアドバイスをいただき、その方向で進めています。


ーーNDRの事業について詳しく教えてください。田口さんは泌尿器科の専門医ですが、ホームページからは肺に関わる機器を開発する会社に見えます。

NDRが開発した装置は簡単に言えば、皮膚から臓器に向かって針をターゲットして刺すという技術です。つまり特定のターゲットに向かって、穿刺(せんし)角度を決められるようなAI技術を基盤としています。従来、体内は見えませんのでレントゲンで指標となるものを確認したり、CTで確認をするのですが、画像だとどれだけいい製品でも、平面図なのです。立体で見ないと、深さが分からず、これが経験の浅い医師にとっては大きなハードルになります。上手な医師は感覚的に分かりますが、そこに至るまでに何十、何百という手術の経験が必要になります。たまたまそのような経皮的な針を穿刺して行う手術の一つが、私たち泌尿器科で行う腎臓の中の石を取り除く手術なのです。肺がんを調べるための検査である『CTガイド下生検』も同様で、CTで腫瘍の位置を細かく見ながら針を刺していくという検査ですが同じ構造で、少しずつ角度を調整しなくてはいけないという難しさがありました。経験の浅い医師だとなかなか正しい場所に行きつかないのです。NDRの製品は、CTを撮り、角度をソフトに読み込ませて解析すると、数秒で正しい位置を特定することができます。私はこれ以外にも肝臓や膵臓などの手術にも応用できることがあるのではないかと感じています。ちなみに余談ですが、NDRというのはナンヤン・デザインド・ロボットの略称で、ナンヤン大学というシンガポールの工科大学で生まれた会社です。


ーー技量の差をテクノロジーで埋めることができるのですね。

その通りです。カーナビに例えると一般の方にもわかりやすいかもしれません。カーナビで言うとハンドル操作やアクセルを踏むのは人間で、「右折してください」とアナウンスされても「え、ここだったの」と思うこともありますよね。それが無くなるイメージを思い浮かべてみてください。自動でセットすれば勝手に曲がってくれる。それがNDRの技術です。手術や検査の際にリアルタイムでX線やCTを撮影しながら画像を一瞬でソフトが読み込む。それを元に数秒で角度を示してくれるため、医師が行うのは穿刺する針を押していくだけになります。現状は深さはデバイスで決めることはできないので、画像を見ながら入れていく形になります。


ーー競合するプロダクトはあるのでしょうか。

CTやX線の高精度な画像を提供する会社はありますが、NDRのように角度を決めてくれるようなアプローチをしている会社はありません。自動で穿刺角度が決められるということが一番の特徴で、そこまで踏み込んだことが他社が真似できない優位性だと思います。穿刺の失敗は医療現場だと起こりうることなので、医師としても画期的な技術だと思います。肺の腫瘍の検査では1センチあるいは5ミリの影をレントゲンで見つけても、悪性(癌)なのか放置していいものなのか区別がつきません。それを調べるために、わずか5ミリのターゲットに向かって針を刺していきますが、非常に難しく、うまく針が刺せないこともあります。出血することでさらに難易度が上がり、刺すことで組織が腫れてくるケースもありますので、本来探したいターゲットがますます分かりにくくなるという悪循環に陥るのです。


ーーNDRが解決しようとしている社会課題、社会的な意義についてお考えをお聞かせください。

一つは専門的な治療行為を行える医師不足という課題の解決です。熟練のゴッドハンドでなければ難しい検査や手術も多数ありますが、そこまでの経験値がなくてもテクノロジーの後押しで同等のパフォーマンスが発揮できるようになります。それを解決していかないと、必要な治療ができる病院が限られることになり、誰でもどこでもしっかりとした医療を受けられるという世界観を継続することはできません。もう一つは医師の負担軽減という側面です。少しでも早く、患者さんの治療が可能になるということのインパクトはやはり大きいです。技量を獲得する労力をデバイスで代替することができれば、医師でなければできない仕事により集中できるようになります。

医者だから社会貢献をしているのではない。社会貢献をする医者でありたい。日本法人の設立に向けての想い。


ーー日本法人設立後はどのようなことに取組んでいくのでしょうか。

日本でのマーケットを開拓していくにあたって、まずは機器承認を取得することが目下の目標になります。PMDA(医療機器の認可を行う組織)との折衝、そして臨床試験、つまりは治験を行っていただく大学病院との交渉などです。認可を受けるまで少なくとも2年はかかるので、まずは治験を行うための準備が必要ですが、輸入手続きや製造、販売チャネルをいかに整備するかということも並行して考える必要があります。スケールさせるためには、少なくともパーツだけでも日本で開発製造することも考えられますし、マーケティングの観点から企業との提携も不可欠になるでしょう。ビジネスモデルについても検討が必要で、デバイスとして販売、つまり売り切りのモデルもあれば年間契約のような形でのリースというのも検討しています。法人も未設立、シンガポールに親会社があるとはいえ機器としてもすぐに売り出せる状態ではありませんので開発、製造、マーケティング、組織づくりまで全てこれからということになります。


ーー日本法人に関わる方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。

今は私のみで、私も医師としての仕事の比重がまだ大きいです。リアルテックホールディングスさんにご支援いただきながら司法書士の先生を交えて法人の設立準備を進めています。登記完了後は、事務作業も発生してきますので、バックオフィス業務を自走できるようにしていく、というのも近々の課題になると想定していますが、基本的にはバーチャルオフィスでスタートして、仕事量に応じて採用していく形になると思います。医者ないし病院に売っていかないといけないサービスであり、私自身は医者や病院に対する知名度を上げていくということが一番価値発揮できコミットできるポイントだと思っていますので、やるべきことと得意分野も見極めながら組織を作っていきたいと考えています。技術的な部分、テクニシャンはシンガポールとマレーシアの力を借りる予定です。


ーー今後必要な人材についてのお考えを教えてください。

当面、日本は私1人でシンガポール本国のCEOでもあるアラン(Alan Goh)と2名の代表取締役という形でスタートします。本国で日本法人の支援を担当するシニアマネージャとアランとコミュニケーションを取りながら運営していく予定ですが、すべて英語での対応になりますので、英語である程度のコミュニケーションが取れることは必須になってきます。医療機器のご経験があればベストですが、初期メンバーは業界特有の商習慣などをある程度理解されている方が望ましいと考えており、医療業界での何らかのご経験をお持ちの方を迎えたいと考えています。役割としては創業期ですので必要なことは全て、ということになります。その意味ではCOOのような役割で、ビジネス全般を何でもやりつつ、ファイナンスも分かる方というのが理想だと考えています。基本はリモートで仕事をする形になりますので、全国どこにお住まいでもご興味を持っていただければ是非一度お話ししてみたいと思いますが、名古屋で臨床試験を行うこともありますし、必要に応じてシンガポールやマレーシアの拠点に行くこともあるのではないかと思います。ですのである程度柔軟に出張対応いただけるということが必要になると思います。要望ばかりになってしまいましたが、流動的なことも多いので、ハーフコミットのような形でご参画いただくということも相談できると思います。


ーー田口さんご自身は今後どのようなキャリアをイメージされているのでしょうか。

いい質問ですね。それは分かりません。ですが、一つのことだけやっていても難しいというようなことを最近よく考えています。私は医者として働き始めてもう16年目になりますが、恐らく医者として同じような経験をしている方はある程度いらっしゃるのだと思っています。その点からも自分にしかできない仕事を見つけ、やっていきたいという気持ちを持っています。医者の仕事は医療行為という仕事自体が社会貢献をしていると仰っていただくこともあるのですが、長年医者をやっていて、医者の医療行為という仕事以外にしっかりと社会貢献をしたいという気持ちは年々強くなっています。これまでは泌尿器科というコミュニティに閉じた活動ばかりでしたが、それを広げていくような挑戦をしていきたいと思っており、NDRはまさにぴったりではないかと感じています。医師起業家と表現されることもありますが、米国ではフィジシャンアントレプレナーと呼ばれ、その数は増えてきています。日本にも医師起業家は誕生していますが、まだまだ数は少ないので先駆けになるような事例を残せれば嬉しく思います。



ーー最後に読者の方にメッセージをお願いします。

医療あるいは医療機器に興味があって、そこから世の中を良くしていきたいと考えられている方であれば、NDRのビジネスに関心と可能性を感じていただけるのではないかと思います。いろいろな方が日本の医療は世界一だと言っていますが、私もそう思います。国民皆保険制度というのは、どこの国にもない優れた制度であり、誰もが治療をどこでも享受できるということを、NDRというフィールドを通じて広めていきたいという考え方に共感いただける方は、是非一度お話ししてみたいと思います。


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